くじば そしてツバメたち 2


 井笠鉄道は山陽本線の笠岡駅を始点とした。笠岡を出ると、まず国鉄沿いに西に向かい、すぐに右に大きくカーブして、古い街並みのなかを北上すると、やがて「くじ場」駅に着く。駅の西側に隣接して「くじ場車庫」が設けられていて、夜間は車輛の休息の場であるとともに、各種の整備作業が行われ、また、廃車あるいは休車となった蒸気機関車や旧式の気動車が留置されていた。
 「くじ場」というのは、じつに不思議な地名である。「くじ」はひじょうに難しくてややこしい漢字(とうがまえに亀の旧字)をあてるのだが、街道筋ではないので「公事場」(人足や荷馬を替えるところ)が転じたものではなさそうである。その「くじ」の字は、「人の意志によらず偶然によって物事を決める手段」を意味し、「籤」とも書く。ちかくには古くからの社寺も多いから、古代、瀬戸内の漁の吉凶を占う、なんらかの宗教的な場所であったのかもしれない。ちなみに笠岡湾は貴重なカブトガニが生息していることでも知られている。
 とまれ、この地は西側にちいさな丘陵がせまり、限られたスペースに車庫、整備工場、部品工作場、留置線、ちいさなターンテーブル、そして駅舎などが効率的に配置され、模型的な好ましさがあった。そしてまた、私たち軽便フアンがじつにのんびりと時間を過ごせる場所でもあったのである。


 「くじ」の正しい字は画数があまり
に多いため、駅名票にも略字(門が
まえに亀)が書かれている (右上)

庫内に置かれていた1号機(右下)
駅名票
車輪

Prev      Next