山国の北 10

とまれ、大阿仁川が生み出した谷や河岸段丘の風景は美しかった。奥只見のような深山幽谷ではないが、それだけに人々の生活があり、産業や生活のながい歴史があった。消えてしまった銅山や林用軌道のかつての盛業の痕跡も、まだたしかに残っていた。
 そして、口数こそ少ないなかにも温かく感じられる山国の人情。「夕方の旅客に乗り遅れたときは、最終の貨物の車掌車に乗せてもらいなよ」とアドヴァイスしてくれた気動車の車掌。「いい写真を撮ってくださいよ」とわざわざ声をかけてくれた行商の老婦人。三脚を立てたあとカメラバックに腰掛けてつい居眠りしてしまった私に「もうすぐ汽車が来るよ!」と教えてくれた子供。撮影準備中に、近くの農家の人たちに熱いお茶をご馳走になり、お礼に一家の記念写真を撮ってさしあげる、というようなこともあった(帰京してから六つ切りに引伸ばした写真を送ったのだが、整理がわるいので探しても住所氏名が出てこないのは、残念だ)。
 山で刈り取った柴を背負った老人が線路沿いに歩いてきたり、遠くの林のあたりを犬を連れ鉄砲をかついだ猟師が歩いていったり、この土地らしい光景にも出会うことができた。幸いなるかな、である。



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