最も印象に残っているのは、もう陽も西に沈まんとする頃、気動車の車中で言葉を交わした人のことだ。三十頃合いのその人は、祖父と父を列車事故で亡くし、それいらい交通安全のキャンペーンのために全国を旅しているという。まるで天童荒太の直木賞受賞作「悼む人」の主人公のようなその人と、貰った飴玉をしゃぶりながらうす暗い車内でいろいろと話し込んだのだが、そんな体験もまた、この「山国の北」に似つかわしかったように、いま思えるのである。
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