この土地の人以外誰も知らない 一日二往復の列車しかない小さな鉄道の 雪に埋もれた短いホームに その人は静かに降り立った。 誰にも挨拶もせず 誰から声をかけられることもなく。 この広い ただ一軒の家すら見えない雪原の どこに彼の行く先があるのだろう。 わずかな荷物を背負って 家に向かうのか。 そこでは誰かが待っているのか。 語られぬ物語が 雪原を渡る風のなかに舞っている。
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