線路のある風景

線路のある風景(序)

もしあなたが、美しい瞬間と、心をときめかせる物語を求めて鉄道写真を撮っていたならば、目当ての列車が来るまでの間に、何かに感動してシャッターを押したことがあるでしょう。

 それは、寒い朝にたなびく朝餉の煙だったり、夕暮れのホームにたたずむ少女の姿だったり、一陣の風に舞い散る花びらだったりするかもしれません。あるいは、帰り道に見かけた線路際の野仏や、草に覆われた古い線路に何かを感じて、フィルムにとどめようとしたこともあるでしょう。
 それらの光景は、煙を吐いて驀進する機関車や、四季折々の光の中を走って行く列車の姿と同じように、きっと私たちの心のどこかに刻みこまれているはずです。

 車両が写っていない写真は、長い間、鉄道写真とは認められてきませんでした。でも、時と場合によっては、もし列車が走っていたら、それほど感動しなかったかもしれない、そんな場面に出会った記憶がありませんか。

 別の言い方をすると、車両がそこにないが故に、写真としての魅力がいっそう引き立つ光景も、存在するはずです。

 この「線路のある風景」では、そんなシーンを集めてみました。

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