腕木式信号機 その1

腕木式信号機

 信号機といえば、やはり腕木式である。あの、ガタンという音とともに腕木が下がる瞬間は、なんともいえない感慨がある。色灯式と違って、反対側から確認できるところもよい。英語でも腕木信号機だけを指す semaphore という単語があるくらいだ。(ただし、この語は表示位置によって情報を伝える信号すべてに使われるので、手旗信号も semaphore に含まれる。)
 2つ3つ並んでいる姿も頼もしい。1つだけ立っている姿も、いかにも孤高の存在という感じがする。かの「シグナルとシグナレス」の物語のように、何か人格を与えて語りたくなるようなところがある。
 見た目は魅力的な腕木信号機も、操作と管理の面では面倒なことが多い。信号所やホーム上からテコの操作をし、長いワイヤで動かすため、事故防止には日々の点検と正確な作業が欠かせないし、動作不良になれば「代用手信号」の表示が必要だ。維持に手間がかかり、多数の人員配置を必須とするシステムなのである。60年代前半には国鉄の幹線でも見ることができたが、その後10年ほどの間に、ローカル線でも大半が色灯式に置き換えられた。


下左=雪がこびり付いて操作不能になっている(頚城鉄道飯室 1971年)。下中=電球を点灯させるので、国鉄で使われていたものには保守作業のためにハシゴがついていた(阿仁合線 1970年代)。右=駅への進入を指示する場内信号機は構内のはずれに置かれ、長いワイヤによって操作される。駅のホームは彼方に見える列車よりさらに遠くにある(信越本線小諸駅 1950年代末)。
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