幌延町営軌道 2

3月23日 問寒別(その2)

鋼製客車には網棚も付いていたが、立つと天井に頭がつきそうだった。右奥の竹ボウキとスコップは冬季の運行には必需品らしい。

上)機関車を進めポイントを切り替えワイヤを引く
中)機関車が進むと客車はポイントの右手へ
下)ワイヤを放して機関車と客車がさようなら

ノートにメモしてある時刻表によれば、午前の列車が出発するのは8時40分なので、それまで2時間ほど余裕があったはずだが、実際に時間通りに走っていたのかどうかは記録をしていないので定かでない。 20線に向かう1番列車には、4・5人しか乗っていなかった。しかも、そのうち1人は、車庫を開けて除雪をしていたおじさんである。 背筋をぴんと伸ばして、難しい顔をしていて、ちょっと取っつきにくいような風貌だったので、この人とはほとんど話をしなかった。 車掌の仕事プラスありとあらゆる作業を担当していたが、職種も名前も不明なので「メガネのおじさん」ということにしておく。

 アーチバー台車の客車は、状態のよくない線路を上下に激しく揺れる。時速は20kmほどだと思うが、ひどくピッチングしながら雪原を走るところは、 まるで宮沢賢治の「岩手軽便鉄道の1月」を思わせて楽しかった。乗車時間は、時刻表にある1時間よりは短かったのではないかと思う。 やがて前方に見える低い丘が近づいてきたあたりが終点だった。周囲は雪の壁。線路とわずかな道路以外は足を踏み入れることができない。

 「メガネのおじさん」が客車にワイヤを引っ掛け、それを握っている。何をするのか想像もつかなかったが、ポイント一つで機回しをするための道具だった。

機関車はポイントの先に進めておいて、ポイントを切り替え、客車をワイヤで引いて惰性で機関車と別の線へ動かす。 すぐにワイヤを放して、機関車は数十m先のターンテーブルに進み、そこで2人で押して転回して戻ってくる。 客車は、ワイヤをすぐはずせば速度は出ないし、雪が積もっていれば突っ込んで停まるので、ブレーキ操作をする人手もいらない。 ナローや専用線で、この手の乱暴な機回しは何回か見ていたが、最小限の2人とワイヤ1本で機回しができる。これには驚いた。

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