遠山森林鉄道 2

谷はどんどん深くなる。遠山川を渡る橋が、まだ吊橋だったかどうかは記憶が定かでない。ちなみに、吊橋をバスが渡るシーンは、 最近出版された「宮本常一の写真に読む失われた昭和」(佐野真一著・平凡社)の裏カバー、「宮本常一が撮った昭和の情景」(毎日新聞社)上巻の裏カバーで見ることができる。
 すばらしく晴れ上がった5月の朝だったので、あたりの斜面は、陽の当たる部分と当たっていない部分とのコントラストがまぶしい。 バスがカーブをぐるっと回ると、さっき杉林と青空をバックにしていたネギ畑が、今度は谷間をバックに見える。そんな急勾配のカーブがいくつもあった。

バス停は梨元の貯木場脇にあるのだが、「梨元」ではなく「本谷口」という名前だった。簡易舗装された道路を、二条の線路が直角に横切って、川の対岸へ向かっている。上村川の岸に植えられた桜並木が逆光にキラキラと輝いていて、橋のたもとには「南アルプス登山口」という標識が立っていた。
 「まだあった」という安心感とともに、「ほんとに動いているんだろうか」という不安も頭をよぎる。あたりに車両が止まって出発を待っている気配は見えないし、道路脇の貯木場にも丸太が積み上げられている様子はない。

事務所で尋ねると、列車は山に行っていて、しばらくすると降りてくるという話だった。
 さっそく撮影地を探して線路を歩く。1キロほどのところに、遠山川が大きく湾曲する地点(二の瀬)があって、そのカーブのほぼ中間で待つことにした。 線路脇には人家もあり、その少し先には釣り橋が架かっている。急斜面の上には茶畑が、対岸には植林された針葉樹林も見えるので、 こんな険しい土地でもずいぶん人間の生活の息吹が感じられる。
 やがて、セメントのコンテナを4つ牽いたDLが姿を現し、急なカーブを車輪をキンキンと軋らせながら通り過ぎて行った。このセメント列車は、 終点からさらに4kmほど廃線跡を進んだあたりで行われているダム工事のためのもので、谷があまりに険しくて広い道路がないため、 谷の奥へトラック輸送ができないという事情で走っていたのである。


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