遠山森林鉄道 10
対岸から

対岸には、吊り橋と線路を見下ろせるすばらしい場所があった。
 「ボンゴ君」でもよいから何か走ってこないかなあと思いながら、まだ植林されて日の浅い斜面で昼寝をしているとエンジン音が聞こえてくる。
 カメラを出し、線路を見つめても何も現れない。しばらくして、音は河原から聞こえてくるのだと気づいた。大きな石を積んだトラックが河原を走っているのである。 びっくりして見ていると、なんと遠山川の本流に乗り入れ、そのまま対岸に渡ってしまう。

吊り橋 水道

上流の河原は赤い色をした変成岩がたくさん見つかるところで、それを運び出して庭石として売っていたのだ。そういえば、ここは「赤石山脈」の南端に近いではないか。

 「心象鉄道」の素材をたっぷり吸収し、のんびりと半日過ごしたので、午後早いバスで帰ることにした。この2日間、一往復半の列車しか見れなかったけれども、 全然退屈はしなかったし、気持ちよく帰途につくことができた。まあまあの写真が撮れたこともあるが、それよりも、この谷と小さな鉄道の雰囲気がとても気に入ったからである。 深い山奥にたった6kmだけ残された線路。それが、連絡係のオバチャンや親切な保線の人たち、線路を歩いて学校に通う子どもたち、彼らのものであり、村人みんなのものである--私にはそんなふうに思えたのだ。

(左)二の瀬の吊橋。現在は落ちてしまって存在しない。(右)広い河原の照り返しがまぶしい。梨元の線路脇にある詰所の水道

薫風に揺れる豆の花。河原のトラックやクレーン。対岸の山に延びる架線。急斜面にわずかな平地をつくって耕作されている畑。山の緑が豊かな色合いを見せているのは、この谷に自然に生え育つ広葉樹と植林された針葉樹が交じり合っているからだ。

 見上げると息が詰まりそうな気がするくらい深い谷間でありながら、至るところに人間の営みが刻まれている。
 遠山の谷は、そういう場所であった。

トラック ネギ坊主

トラック2 信和

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(左上)赤い石を積んで川を渡るトラック。 (左下)梨元の河原には、廃車になったトラックや集材用のワイヤ、トロッコや古タイヤなど、さまざまなものが置いてあった。 (右下)本線から短いトンネルを抜けたところにある信和の土場