イラストの小部屋  資料編  銅版画時代1


 写真と製版技術が普及する以前の時代の「リアルな絵」といえば、なんといっても銅版画(エングレーヴィング、ドライポイント、エッチング等)である。19世紀末から20世紀初頭の欧米の新聞では、ニュースの迫真性を高めるために主に銅板による挿絵が使われ、非常に多くの交通機関の絵が残されている。
 銅版画の技法は、産業革命の時代にはきわめて完成度が高くなっており、機械の質感と人物や自然の描写を描き分けたり、背景のタッチや色合いは主題を際立たせるようにしたり、さまざまな工夫がされた。このページの絵は、19世紀の交通関係の絵を集めた著作権フリーの画集"TRANSPORTATION"(ジム・ハーター編 Dover Publications Inc. 1984)からの引用で、作者は不明。左端が全体、右の3つはその部分拡大であるが、雲と空、山と湖の水面、人間の肌と衣服、自転車を構成する木と鉄の部分、地面と枕木などが、異なる技法によって描き分けられているのがわかる。
 江戸末期から明治にかけて、我国でも司馬江漢をはじめ優れた銅板画作家が登場したが、明治30年代になると写真製版の技術が広まったこともあって、我国では銅版画は一部の芸術家が手間ひまかけてとりくむものとなり、大衆向けの出版物への掲載例は多くない。鉄道を描いたものとしては、過去に前田浩利(峰村)という方の作品が故黒岩保美氏の監修で発行されたことがあるが、鉄道ファンの間ではあまり話題にならなかったようである。
 制作に手間と時間がかかるため、銅版画が商業出版物に利用されることも少ないが、この銅版のタッチは捨て去ってしまうには惜しい気がする。たとえば新しい画像加工の技術を応用して蘇らせることはできないものだろうか。

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